女王様のため息

司が大学時代に付き合っていた彼女とうまくいかなかったのは、司にとっての『恋愛の理想』というものが強くあったせいらしい。

そんな理想を、言葉にしてうまく伝える事ができれば、当時付き合っていた恋人とも別れる事なく順調な日々を送れたのかもしれない。

けれど、感情の奥深くに響く『理想』という存在を、正確な言葉で恋人に求める事はできなくて、好きだという気持ちはもちろんあったけれど、それ以上にもどかしさも感じていたらしい。

恋人と会えば好きだという思いを抱くし、体を重ねて愛情を確かめ合う事もした。

そして、それに満足する自分もいたけれど、それでもどこかに物足りなさを感じながら何人かの女の子と付き合ったらしい。

そんな司の親友に恋人ができた。

同じ大学の『美香』。

穏やかで優しげな見た目とは裏腹に、どこか芯の通った強い性格が、彼女の魅力を一層引き立てていた。

けれど、恋人を大切に愛する事を一番の幸せだと考えているのが露わに見えるような愛し方をする美香さんは、一途という言葉では収まりきらないほどに恋人に夢中だった。

恋人だけに向ける美香さんの激しい感情は、まだ大学生だった司には衝撃的で、これが自分の理想とする恋愛だと、直感で気づいたらしい。

恋人と戯れながら、その瞳は一途に一人を見つめ、恋人以外の人間の声なんて聞こえないんじゃないかと。

そう周囲が呆れるほどに夢中で恋人の側で寄り添っていた美香さん。

そんな美香さんと恋人の関係が、羨ましくて仕方なかった、と司は苦しげにつぶやいた。

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