女王様のため息
けれど、美香さんのそんな気持ちを重く感じるようになった恋人は、若いという事も手伝って、あっさりと美香さんを捨てて、新しい恋人のもとへと去ってしまった。
『美香の強い思いは、俺にはつらかった』
そんな捨て台詞を吐いて背を向けた元恋人。
唯一絶対の恋人が、自分の側から離れて、そして他の女のもとへと去ったという事実は、美香さんの心を完全に崩壊させて、そして。
自殺未遂。
詳しく語ろうとはしない司だけど、元恋人の家の前で、手首を切ったと。
苦しそうな声で、早口に言う司は、一瞬両手で頭を抱えるほどに顔色が変わっていた。
元恋人の部屋の隣人が気づいて、119番。
幸いにも命は取り留めたけれど、美香さんの心は粉々になったままだった。
「俺は、美香が恋人の隣で笑っている姿を見るのが、好きだったんだ。
本当に幸せそうで、恋人がいれば何もいらないっていう顔は、本当に可愛くて。そのことが単純に羨ましかった。
だから、美香にもう一度笑って欲しいと、そう思って。
俺があいつの代わりに寄り添うようになった」
口元を引き締めて、眉を寄せた司は、大きくため息を吐いて。
「それが、間違いだった」
私の手を握る力が、ぐっと強くなって。
司の目は気のせいか。
潤んでいた。