女王様のため息
あまりにもつらそうな表情で話す司の姿を見て、私は

「もう、いいよ。話したくないなら話さなくてもいいから」

と言って司の背中にそっと手を置いた。

誰にだってつらくて切ない過去はある。

そのことを真っ正直に口にするだけが正解だとは思わない。

司にとってのつらい過去を分けてもらって、その荷物を軽くしてあげたいけれど、今の司には、荷物を降ろす力すらないような気がする。

「話せる時がきたら、話して欲しい。それでいいから、今は飲もうよ、ね」

「いや、いいんだ、今話しておかないと真珠との関係を変えられないだろ。
それが、もう我慢できないんだ。……限界だ」

「……」

手元のビールを飲みながら、小さく息を吐いて気持ちを整えたらしい司は、私に顔を向けると。

「美香のように、恋人を一途に愛する女が側にいて欲しいとそう思ってた。
美香の恋人に対する愛し方に自分の理想を重ねたんだ。
でも、美香が愛したのは俺の親友で俺じゃない。
だから、美香が俺の事を同じように愛するわけがなくて。
俺だって、美香自身を愛してたわけではなかった。
俺が欲しいと思っていたのは、美香と恋人の二人の関係だっただけで、美香じゃなかった。
でも、美香は、俺が側にいれば孤独からは解放されてどうにか落ち着くみたいで。
……ただひたすら俺にすがってたんだ。
そうだな、側にいてくれるなら、誰でも良かったんだよ。きっと」

「誰でも……」

眉を寄せて、口元を引き締めた司は、美香さんの事を思い出しているのか視線をさまよわせるように揺らした。

「誰でもいいけど、誰かがいないと壊れる。
そんなあやうい状態の美香の側から離れる事はできなかったんだ……ずっと」

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