女王様のため息
司の唇の温かさは、ほんの少しの安らぎと、かなりの戸惑いや不安。

どちらかというと、私自身の元来の後ろ向きな性格を表に呼び出してしまった。

お店を出た後、司に掴まれた手を気にしながら歩く私の心臓は破裂しそうで。

会社では『女王様』と呼ばれる私の本当の姿は、弱気全開で俯いたまま生きているだけの小さな女だ。

司が、私の手をぎゅっと握りしめた。

はっと見上げた私を見つめる司の瞳。

そんな私のぐずぐず悩んでる姿を見て驚いているはずなのに、ただ私を見つめてる優しい、落ち着いた視線からは安心感しか感じられない。

「ゆっくりでいいから、気持ちを整理して俺のところに来て欲しい」

こんなに低い声が出せる人だったんだ。

司だって、今まで私が知らなかった面を見せているんだと気づいて、少しだけほっとした。

『同期』という枠を取っ払ってしまえば、私が知らなかった司が目の前に現れて、これまで以上にときめくのかもしれない。

「そりゃ、今すぐ真珠の何もかもを俺のものにしたいけど、真珠が混乱してるのがわかるから、もうしばらくだけ待つ」

「しばらく……」

「そうだ、しばらくだけ。今まで何年もすれ違ってきたんだから、これ以上離れていたくない。
でも、真珠を手放すつもりはないから、待つだけだ。
真珠がどんな結論を出したとしても、俺から離れる未来だけは許さない」

……『隠れ王様』発見だ。

許さないなんて言葉を平然と使う男、初めて見た。

これが、本当の司なのかもしれない。

そう気付いて一層募るのは、司が大好きだという切ない気持ち。

< 75 / 354 >

この作品をシェア

pagetop