桜空あかねの裏事情
少女と少年の邂逅

「えー……この度は本校へのご入学おめでとうございます」


機械的な言い回し。
否、社交辞令が遠くから聞こえる。
少女はそんな言葉すらまるで聞こえてないのか、気に掛ける様子もなく辺りを見遣る。
同年であろう様々な服装の少年少女達。
それに付き添う父母達が、真剣な面差しで話を聞いている。
そんな姿に少女は、溜め息をつきながら心底思う。


どうでもいい、と。


他者からすれば、聞かなくてはならない事だとしても自身にとってはむしろその逆。
聞かなくても然したる問題ではないのだ。
だから少女は無心になりながらも、この空間から早く脱したいと密かに願う。


「それから本校におきまして――」


教諭らしき人物が話し始めてから、いくらか経ったのだろうか。
全く聞いていなかった少女には、どこまで話したのか、手に持っている資料を軽く見たところで分かるはずもなく、遂には鞄の中にしまった。


「説明会ってダルいよな」

再度、溜め息を吐こうとした矢先。
ふと左斜め後ろから声が聞こえた。
少しだけ振り返れば、学ラン姿の茶髪の男子が、目に映った。
知り合いではない。


「親がいる手前、他のヤツらもあんな顔してるけどさ。絶対聞いてないよな」

「はぁ…」


いきなりの事に曖昧な返事を返す少女だが、少年は気にせずに話し掛ける。


「オレ、香住昶。同じクラスになってもならなくてもよろしくな」


そう言って笑う少年を見て不思議なことに、少女はこの時間と空間に、意義を見つけられそうな気がした。


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