桜空あかねの裏事情
黎明館 地下
コンクリートの壁に覆われた殺伐とした空間。
そこには朔姫とジョエルが一定の距離を置きながら、緊迫した雰囲気の中、対峙するように向かい合っていた。
「久しぶりの手合わせだ。どの程度、成長したか見せてもらおう」
「はい」
返事をすると同時に、朔姫は片足を引いた。
そして膝をゆるめ、僅かに腰を落として飛び出す機会を窺う体勢を取る。
「では……お手並み拝見だ」
床を蹴り、駆け出した時、朔姫の耳にはジョエルの低く重圧を掛けるような呟きがはっきりと聞こえた。
「はぁっ!」
臆しそうになる心を奮い立たせ、朔姫はジョエルに向けて駆け、渾身の力を込めてその体を目掛けて蹴りを叩き込む。
「ほう……早いな」
的確な蹴りに感心の声を上げるが、行動は裏腹に、ジョエルは体を後ろに引き、それを避ける。
「だが、所詮はその程度だな」
「いいえ」
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