桜空あかねの裏事情

手を翳せば、周囲に漂う雹がジョエルに降り注ぐ。
このままいけば、ジョエルから一本取れると、微かな希望が宿る。
だが、そんな希望は幻だと言わんばかりに、一瞬にして消し去られた。


「上出来だ……」


心底楽しそうに、口元に笑みを浮かべるジョエル。
追い詰められた状況さえも、まるで動じていないかのように。
いよいよ雹がジョエルに当たるかと思いきや、瞬時に彼を覆うように黒い靄が発生する。
そしてジョエルに襲いかかる全てを、溶かすように消し去った。
その光景に朔姫は瞠目し、唖然としているとジョエルは妖しく笑った。


「終わりか?ならば、今度はこちらから行かせてもらう」

「くっ」


ジョエルが放った黒い靄が、包むように襲いかかれば、朔姫は体勢を崩す。
氷は溶け、既に自由を取り戻した足でジョエルは、怯んでいる朔姫との距離を一気に詰める。


「相手の動きを封じる為に、壁際まで追い詰める手法は見事だった。だが……まだ甘い」


既にジョエルの左手に集められた黒い光。
あまりの至近距離に避けられるはずもなく、朔姫はまともに喰らう。


「きゃあっ…!」


短い悲鳴を上げ、その場に崩れ落ちる朔姫。
だが流石のジョエルも手加減はしていたのか、痛みはあれど、すぐに自身で身を起こした。


「参りました……やはり、あなたは強い」

「当然だ。君より遥かに、経験も実力もあるからな」

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