桜空あかねの裏事情
悪びれる様子もなく、当たり前に言ってのけるジョエルに、朔姫は尤もだと思った。
目の前にいる男の実力が、この程度ではない事は今まで過ごした日々の中で痛いほど理解している。
だからこそ、自分が非力である事実を余計に突き付けられ、俯く朔姫。
「落ち込むことはない。私に適わないとはいえ、動きも以前より大分機敏になり、君の異能である“氷”の質も良くなっている。このまま鍛錬を続ければ更に向上しよう」
「……ありがとうございます」
そのまま深々と頭を下げると、ジョエルは歩み寄り、右手を朔姫の頭に置いた。
「君は呑み込みが早く、実に優秀だ。期待している」
「そんな……貴方を始めとする先輩方のご指導のお陰です」
「クックック……謙虚だな。まぁ、それが君の美点か。あのお嬢さんにも見習わせたいものだな」
ジョエルの言葉に、朔姫ははっとして顔を上げる。
「あの……一つ聞いてもいいですか?」
「何だ?」
「ジョエルさんは、どうして桜空さんをリーデルに?」
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