桜空あかねの裏事情
男と青年の密会話
必要最低限の灯りしかない、どことなく暗いその部屋。
その中心で黒いサングラスを掛けて椅子に腰掛ける一人の男。
机の上でやや散乱してる書類を手に取り、ただ眺めていた。
「お疲れ様」
近くでその様子を眺めていた青年が、笑みを浮かべてお茶の入ったペットボトルを男に差し出す。
「ほぅ……お前にしては珍しく気が利くな」
「そこは珍しくではなく、いつもではないかな」
青年の戯言を聞き流し、男は差し出されたペットボトルの蓋を開けて一口飲む。
「先程聞いたのだけれど、君はこれから予定があるとか」
「そうだ。今から接触しようと思ってな」
男の言葉に青年から笑みが一瞬消えるが、すぐに戻る。
しかし先程とは違い目を細めていて、まるで相手の動向を伺っているようであった。
「それは……この前話してくれた例の娘かな?」
「ああ。そろそろ時期かと思ってな」
「時期、か。何のだい?」
「……」
青年の問いただすような言葉に、男は沈黙を貫き通す。
やがて懐から一枚の写真を取り出し、一旦眺めた後ゆっくりと机に置いた。
「大分待たされたからな。先方がどう言おうが、もはやこちらの勝手だろう」
「………」
やや不自然な物言いに、真意を探ろうと射抜くように男と写真を交互に見つめる青年。
意味ありげな青年の視線に、男は気付きながらも何も言うことはなく時計を見上げる。
「もうじき子供達も来る頃合いだな。私がいない間、暇そうなら書類の整理なり作成なり、何でも押し付けてやれ」
「……酷な事言うね」
「フン。学生とは言えど今は休み。多少の労働は必要だと思うがね。まぁこれも教育の一貫だ」
「教育ね。調教の間違いじゃないのかい?」
「さぁな。このチームにいる者に私がどうしようと勝手だ。それを部外者に言われる筋合いはない」
「そう言われると何も言い返せないんだけれど……とりあえず、いってらっしゃい」
席から立ちながらサングラスを掛け直して歩く男の背を、青年はただ見送った。
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