桜空あかねの裏事情
黎明館前
「一応、来てみたは良いが……」
男は目の前にそびえ立つ洋館を見上げながら、そう呟いた。
赴くには問題ない時間帯だが、辺りはやたら静寂に包まれている。
故に目前に見える建物の存在感に気圧される。
「やはり過去に栄華を極めただけはあるということか」
年季を感じる建物を見て、男は素直な感想を述べた。
ここを拠点とする彼のチームは、今や解散寸前まで追い詰められ、落ちぶれた過去の産物となりかけている。
それでもひたむきに無所属の異能者を探している事は養成所を通して知っていたが、この今際の時によりによって何故自分を指名したのか、男は理解しかねていた。
――だからこそ、ここは直接聞くべきだ。
――だから自分はここにいる。
――向こうから指名して来たのだから、
――彼のチームのリーダーに会えるだろう。
――……いや、空席という噂も聞いているから
――あまり期待は出来ないか。
――今更チームに入るとは思わない。
――しかし過去に興味や憧れを抱いたチームだ。
――もしかしたら気が変わるかも知れない。
そんな想いを密かに抱きながら、男は一歩ずつ館へと足を踏み入れるのであった。
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