桜空あかねの裏事情

「まだ聞いてない」


ジョエルの問いに素直に答えた。
だが事実、昶は彼に話しがあると言っただけで、具体的に何を話すかまでは聞いていない。


「昶」

「おう!……あ」



あかねが呼んだ事で元気良く笑顔で返事をする昶だが、隣にジョエルの姿に気付いたのか笑顔がほんの一瞬だけ強張った。
しかしその姿に怯えや恐れは見えず、昶は席を立ちジョエルの方へ歩み寄ってきた。


「どうも。昨日からお邪魔してます」

「ああ……どうやらそのようだな。話は先程、お嬢さんから聞いたよ」


やけに丁寧過ぎる二人の口調に妙な緊迫感を感じながら、あかねは静かに様子を見守る。


「オレ、実はあなたに言いたい事があるんです」

「らしいな。私も君には色々と覚えがある」

「でも悪い話じゃないですよ。あなたにとってもオレにとっても」


その言葉にジョエルは目を細める。
そして他者に皮肉を言う時と同じように、口元を歪ませ笑みを浮かべた。


「ほう……それは興味深い。是非とも聞こうじゃあないか」

「けどその前に、聞きたい事があります」


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