桜空あかねの裏事情
「はい」
その声に振り返ると、背後では頭を下げ跪いた少年がいた。
「遅かったな。結祈」
「申し訳ありません」
名を呼ばれた少年――結祈(ユキ)は頭を上げることなく謝罪の言葉を述べる。
「謝罪はいらん。報告しろ」
「はい。彼女は友人らしき人物と戸松駅で別れた後、常磐線で日暮里まで行きその後、山手線にて池袋で降り、ご兄弟と無事合流致しました」
「その間、誰とも接点は無かったか?」
「ありませんでした。しかし例の者達が、近辺を嗅ぎ回っているのは変わりなく」
「……そうか。下がれ。それと支度をしておけ。笑われるような格好にならぬよう、せいぜい気をつけろ」
「はい」
結祈は一礼すると一瞬にしてその場から消えた。
目の前で使われたからか、【瞬間移動】ほど便利なものはないのではないかと思ってしまう。
「……相変わらず、こき使っているんだね」
「当然だ。オルディネの為なら、使えるものは使う」
「結祈が可哀想に思えてくるよ」
そう呟いて、アーネストは先程まで結祈がいた場所を眺める。
「あれは母親似だからな。父親に似ていたのなら多少の愛でようもあっただろう」
「父親似、ねぇ……」
「もしもの話だがな」
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