桜空あかねの裏事情
鳥籠の中


目覚めれば、見慣れた天井。
重苦しい香の匂い。
気怠い体をゆっくり起こせば鍵が外れる音がして、扉が開く音が聞こえる。
ああ、また朝が来たのだ。


「おはよう、黒貂。よく眠れたか?」


……はい。貴方様のお陰で。
そう言えば目の前の男は至極、嬉しそうに笑った。
そんなはずないのに。
この男は知らないのだ。
朝も昼も夜も変わらず、この窓さえない部屋で過ごしている私の気持ちなど。


「君は相変わらず美しい」


悦に浸った笑みで私に近付き頬に触れる。
そして軽い口付けをする。
もはや日課。
いつも通り。
そこに愛もなければ、心すらない。
ただ空虚に過ぎる。


「すぐに朝食を用意するからね」


その言葉に私は仮面を貼り付けるかのように微笑んで頷く。
それに満足したのか男は私に背を向けるが、扉に手を掛けたところで振り返った。


「そうだ。今度ね、うちのチームに新しい子が来るんだ」


思い出したように言う彼の言葉に、私は耳を傾ける。


「オルディネが狙ってる子だけど、君と年が近い女の子みたいだから話し相手になるかと思って」


話し相手……それはなんて悲劇なんだろう。
自分のような者がまた一人増えるなんて。


「ん?あぁ、安心して黒貂。僕は君しか愛してないから」


私の表情を見て何を思ったかは知らないが、この男はつくづく愚かで低能だと思う。
そしてそんな男に囚われた私もまた愚か穢らわしいと思う。

それでも願わずにはいられない。
こんな私の手を取り、ここではないどこかへと連れ去ってくれる
誰かが来てくれるのを。
叶うはずはない夢だど知っていても。

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