桜空あかねの裏事情
「山川さん」
「そろそろ起きてる頃かと思って……正解だったみたい」
部屋を入ってきたのは朔姫だった。
両手でトレーを持ちながらあかねに近寄ってくる。
不思議そうにその光景を眺めていると、朔姫は困ったような表情を浮かべた。
「ごめんなさいね。本当はジョエルさんにも放っておけと言われたのだけれど……心配で」
朔姫の素直な謝罪に、あかねは急いで首を振る。
「私こそ、今日遊ぶ約束してたのにごめんね。その上、心配まで掛けちゃって」
普段通りかは分からないが、今出来る精一杯の笑みを向ければ、朔姫はトレーに乗っていたものを机に移し始める。
「とりあえず、これ食べて」
差し出されたのは作り立てのおにぎりと、妙にぎこちない形をしたリンゴであった。
「あ、ありがとう」
言われるがままにおにぎりを一つ取り、一口食べる。
「美味しい?」
「うん!朝食食べてから何も食べてなくて、丁度お腹空いてたの!」
「そう。良かった」
朔姫は安心したように笑う。
「おにぎり作るの、久しぶりだったから……口に合うか不安だったの」
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