桜空あかねの裏事情

その言葉に、あかねは目を丸くする。


「このおにぎり、山川さんが作ったの?」


尋ねれば、恥ずかしげに頷く朔姫。


「小さい頃、母がよく作っていて。私も見様見真似で作っていたから、昔から得意なの」

「そうだったんだ。すごく美味しいよ、ありがとう」


感謝を述べると朔姫は嬉しそうに笑った。


「山川さんは、お母さんと仲良いんだね」

「ええ。私にとって家族は母しかいないから、とても大切」

「お父さんは?」

「父は私が生まれてくる前に死んだみたい。だから詳しくは知らない」

「あ……そうなんだ」


余計な事を聞いてしまったのではないかと思ったが、当の朔姫は大して気にしておらず、あかねは気付かれないよう安堵する。


「桜空さんは?大家族って聞いたことあるけれど」

「あ、うん。母さんと兄さん三人と弟、妹と……」

「…養女さん?」


後に続く言葉を予測していたのだろう。
朔姫は控え目に言うと、あかねは少しだけ目を伏せる。


「……うん。山川さんも知ってたんだ」

「ええ」

「もしかして昶から?」

「違うわ。昶と瀬々くんが話していたのを偶然聞いたの」


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