桜空あかねの裏事情
「そうなんだ」
恐らく自分がいない事を不思議に思った瀬々が、昶に尋ねたのだろう。
その時に槐の話が出て、瀬々は察したのだろう。
情報屋に勤めているのだから、知っていても何ら可笑しくはないのだ。
「桜空さんは、その養女さんの事好きではないの?」
「うーん。正直言って分からないってのが本音かな」
「分からない?」
「うん」
あかねは少しの沈黙の後、素直に話し始めた。
槐の事。
母の事。
そして自分自身がどう思っているのか。
その間、朔姫は何も言わなかった。
あかねから決して目を逸らさず、真剣に耳を傾けていた。
「……お母さんは、桜空さんがそう思ってる事知ってるの?」
「知らないよ。言った事ないもの」
「……話さないの?」
朔姫の言葉に、あかねは俯く。
言おうと思った事は何度かあった。
その都度言ってしまえば今までの関係さえも、崩れてしまうのではないかと思ってしまうのだ。
距離を置かれていると言っても、母にあからさまに疎まれたり、無視されたりしているわけではない。
あくまでも、表面的には普通な親子なのだ。
そんな仮初めの関係であっても、繋がっていたいと。
断ち切るにはまだ覚悟も、自信もないのだ。
.