桜空あかねの裏事情
「そうなんスよ。山川さんと同じで、俺っちも納得いかないんス。アヴィド側の言い分しか聞けないし、矛盾点もいくつかあるし。でも」
「死人に口なし」
その言葉に空気が張り詰め、場が静まり返る。
だが妥当な言葉だった。
しかし物騒な言葉には変わらないようで、横で弁当を貪ってたはずの昶が、ついに涙目になる。
「いきなり言うなよ。こ、怖ぇから」
「ごめん。でもその通りでしょ」
「まぁ、ね。だから俺的にも、七華も彼を保護したいわけッスよ」
「七華?」
「異能者の始祖とされる古代種の直系である桜空、菊地、海藤、橘、椿、杜若、桐島の七つの由緒正しき家柄の事ッスよ」
朔姫の疑問に瀬々は簡潔に答える。
「要はあかねの家はすげーって事だよな」
「凄いっていうか、それさえ超越してるというか……御三家自体が特別というか、別格なんスよ」
「へぇ……そんなに偉いんだ。うちの家」
「偉いッスよ。ってかあかねっち、知らなかったんスか?自分ん家なのに」
「知らない。私はそういう教育受けてないし」
「またまたぁ。あかねっちはお兄さん三人いるけど、長女っしょ?」
確かに長女ではあるが相応の教育は施された覚えはなく、その上生家の事を知ったのは皮肉なことに実家を離れてからだ。
だが自分以外の兄弟は少なくとも御三家の子息、息女としての教育はされているだろう。
とはいえ、家柄の詳細まで知っているのは跡取りである長男の棗と、彼を補佐する為に半ば強引に教育された次男の薊くらいだろうと推測する。
「長女でも長子じゃないし、跡取りでもないから」
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