桜空あかねの裏事情

黎明館 食堂




「結ー祈ーっ!のど乾いたー!」

「言われなくても、用意していますが」

「ヤダヤダ!ボクは冷た〜いが飲みたい!」

「……はぁ」


駄々をこねる自分より幾分か年上の陸人に、結祈は皿を洗う手を止めて深く溜め息を吐いた。
そして手を拭き終わると、冷蔵庫からペットボトルを取り出した。


「駿さんの為に用意した炭酸飲料なのですけどね」

「わーい。嫌味たらしいけど、ありがとー」


口では悪態をつくものの、陸人は素直に受け取る。


「くーっ!久しぶりに飲んだけど、やっぱコーラは美味いね」

「そうですか。自分はあまり好かないので、分かりませんが」

「あっそう。若いのに変わってるね」

「………」

「んで、例のお尋ね者さんはどうなの?」


陸人が笑みを含みながら尋ねる。
それがここに赴いた理由なのだろう。


「一向に目覚める気配はありませんが、傷自体は回復に向かっています。あと数日すれば完治すると思います」

「ふーん。やっぱ君のもう一つの能力も便利だねぇ」

「……気になりますか?」

「何がー?」

「彼ですよ」

「んー……それなりにね。彼が本当に生き残りなら兄さん達に報告しないと」

「正確には柳の。では?」


鋭い指摘に一瞬だけ反応を見せて、意地悪い笑みを見せる。


「知ってるんだ?どうせジョエルに聞いたんでしょ」

「いえ」


結祈は短く言葉を切る。


「治癒を施すときに、アーネストさんに直接聞きました。彼が柳の生き残りだから丁重に保護して、傷が完治するまで公にしないで欲しいと」


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