桜空あかねの裏事情

それきり結祈は、その話題には触れずに沈黙する。
彼とジョエルの関係は、第三者から見ても違和感を拭えない程、歪であるとアーネストは思う。
一体いつからそうなってしまったのか、その発端は何だったのかは知らないが、以前のように彼の事を笑って話せる結祈に戻って欲しいと、密かに願っている。



「それにしても、いつまでこの膠着状態は続くのだろうね」


話題を切り替えると、先程の複雑の表情ではなく困ったような笑みで結祈は思案する。


「どちらかが折れるまででしょうか。自分には、ジョエルは何故あんなにも頑ななのか理解し難いです。普段から駄々をこねる事はありますが」

「何だかんだ言って、あかね嬢はジョエルの言う事に従っていたからね。でもそれは、彼女自身も納得していたから従ってたように見えただけ。今になって意志が食い違って、思った以上に抵抗されて気に食わないんだろう」

「そういうものでしょうか?」

「そういうものだよ。特に彼は子供っぽいから」



理由を述べれば、結祈は納得したような表情を浮かべる。
自分の思い通りにならない事など幾らでもある。
それが他者との間に起きている事なら尚更の事。
誰もが目の前にいる彼のように愚かな程、従順ではないのだ。
そんな事を思いながらアーネストは一つの提案が浮かぶ。


「ねぇ結祈」

「何でしょうか?」

「掃除が終わった後、私と出掛けないかい?」


突然の誘いに戸惑いながらも、結祈は頷く。


「構いませんが、どちらに?」

「ヴィオレットさ。あかね嬢達は今日、藍猫に行くみたいだからね。折角だから、お茶でもしようと思ってね」

「分かりました。他の方達にも声をお掛けしますか?」

「そうしたいところだけど、今回遠慮したいかな。なんというか……色々と面倒だから」


やんわりと断れば、結祈は一瞬目を丸くした後、含み笑いで少し楽しそうに頷いた。


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