桜空あかねの裏事情
プラティア 第三区
「へぇ、こんなとこに道あったんだ」
連日のように授業を終え、瀬々に連られながらプラティアを歩いていく。
この空間に訪れた事はしばしばあったものの、第一区以外に足を踏み入れた事は無く、あかね達は目に映る全てに興味を示していた。
「プラティアの街並みは、シュタットプラッツァをモデルにしてやすからね。比較的、路地が多いんスよ」
「シュタッピラッタ?」
「シュタットプラッツァよ。どこにあるかは知らないけど、確か異能によって創られた絶海の孤島で、そこに住む人はみんな異能者だと聞いた事あるわ」
疑問に後ろを歩く朔姫が答えると、隣を歩いていた昶が呟く。
「なんか観光地みたいだな」
「まぁそうッスね。でもその島に入れるのは異能者だけで、一般からの干渉は遮断してるんスよ。まさに神秘の秘島って感じッス」
「秘島というより、監獄みたい」
「あかねっち……夢がないッス」
呆れる瀬々を横目に、路地をしばらく歩いていくと、大きな通りに出る。
戸松の通り程ではないが、第一区より人の出入りが多く、賑やかだった。
「この空間って、そんなに人がいないと思ってた」
少なからず人の通りがあるその光景を見て、あかねは思ったままの言葉を口にする。
「あかねっちが普段行く第一区は酒場が多いんで、昼は静かなんスよ。その代わり、夜は凄いッスけど」
「…そうなんだ」
どうりでアーネストが行きたがるわけだと、あかねは妙に納得する。
「んで、第三区は商店街を中心に賑わってるんス。結祈さん辺りは買い物に来てたりするんじゃないんスかね」
「ふーん……」
「あぁ、あと養成所の学生も寄り道してるのも見掛けるッスね」
そう言いながら路地に差し掛かったところで、瀬々は足を止める。
彼の目線の先にあるのは、光も差さない一際狭い路地の奥にあるプレートも何もない古びた扉で、どこか裏口を思わせる。
「ここが入り口ッス」
瀬々は数歩進んで、あかね達の前に出て向き直ると、どこかの紳士のように腰を折り一礼した。
「ようこそ、藍猫へ。親愛なるお客様」
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