桜空あかねの裏事情
「アーッ!ジャマシナイデヨ!」
少女は頬を膨らまして抗議するが、朔姫は黙したまま表情も変わらない。
「あなた……何か変な感じがする。これ以上、近付かないで」
それだけ言って、朔姫は尚も少女を睨み付ける。
その態度が益々気に食わなかったか、少女は足をじたばたさせた。
「アーモウ!ウマクイクカトオモッタノニ!」
頬を膨らませながら抗議すると、一定の距離を取るように後退る。
「メンドクサイコトハキライダケド……シカタナイヨネ?」
言い終わると同時に少女の周りには、まさに鬼火とも言えるような浮遊する火の玉が現れる。
その光景にあかねと昶は思わず瞠目するが、朔姫は動じる事もなく自身の周りに雹を発生させ、臨戦態勢に入る。
「アレレー?アナタモ、イノウシャ?」
氷の異能を発動する朔姫を見て、少女は心底楽しげに笑った。
「ラッキー♪イッショニ、アソボー!アタシガカッタラー……ウシロノコ、モラウネ♪」
「断るわ」
そう冷淡と告げた朔姫は、手を翳して飛んでくる火の玉に、発生させた雹をぶつける。
衝突した雹と火の玉は、高熱により溶けて、互いに小さくなって消えていく。
「アー!キエチャッタ!」
「……やりにくい相手」
そう呟くと、朔姫は少しだけあかねの方へ振り返る。
「逃げて」
「!」
「あの子の狙いはあなた。ここにいたら危ない」
「で、でも…」
「行って。相反する異能でも、時間は稼げる」
手短に言って、再び雹を発生させると、朔姫は斜め後ろの路地を指差した。
「あそこを真っ直ぐ行けば、すぐヴィオレットがあるわ。結祈とアーネストさんに伝えて」
「で、でも」
「行くぞ」
「昶!?」
動揺するあかねとは対照的に、昶は迷わず腕を掴んで走り出す。
「ニガサナイ♪……ワワッ」
追いかけようとする少女に、朔姫は素早く立ちはだかり、どこからか取り出したスローイングナイフを投げて動きを止める。
「イキナリナゲルナンテ、アブナイジャン!!」
「あなたの相手は私。余所見してる暇があるなら、覚悟して」
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