桜空あかねの裏事情
雹を発生させつつナイフを構えて牽制すれば、少女は少しずつ火の玉を増やしていく。
朔姫は爪先に力を入れて前屈みで重心を掛ける。
張り詰めた空気の中、意識を研ぎ澄ますように、鋭い眼光で相手から目を逸らさない。
狙いを定めて駆け出せば、待っていたかのように、火の玉が降り注ぐ。
「はあっ」
それを先程のように雹で防いでナイフを投げるが、足元さえ掠めることなく、避けられる。
「サッキミタイニハイカナイヨーダッ!」
挑発的な態度の少女に、朔姫は手に持っていたナイフを全て投げると、距離を一気に詰めて間髪入れずに蹴り飛ばした。
少女は受身を取ろうとするが、反応が遅く間に合わず、容赦なく飛ばされる。
「イタタ……モウッ!アシトカズルイヨ!」
「それはごめんなさいね」
呆れたように呟くと、地面に接している少女の下半身と手を凍らせて動きを封じる。
「キャッ!ツメタイ!!」
「うるさいから、少し大人しくして」
「ウルサクナイモン!!」
「はぁ……」
ナイフを拾いながら溜め息を零したその時、自分が先程指差した路地の方から、何か揉めているような声が微かに聞こえた。
あちらでも何か騒ぎがあるのだろうか。
そんな事を思っていると身動きの取れない少女は、不服そうに声を漏らした。
「ムー!アタシハコンナメニアッテルノニ、アッチハウマクイッテルナンテ」
「?」
「ツマンナイ。ヒトリデヨウドウナンテ、ヤラナキャヨカッタナ」
「陽動?………まさか」
言葉に含まれた意図に気付いた朔姫は、表情を崩し血相を変えて踵を返す。
「アッ!チョットコレ、ナントカシテヨー!!」
自身の背に訴える声など気にも止めずに、路地へと走り出す。
喧騒が少しずつ大きくなり、焦燥感に刈られながらも、妙に長く感じた路地を抜けようとする。
「離してっ!」
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