桜空あかねの裏事情
「……怪我はありませんでしたか?」
「あーうん。最終的にジョエルに片付けてもらったからね。しかも一瞬で。認めたくないけど、彼は強いね」
ふてくされたように言い捨てると、アーネストは曖昧な笑みで尋ねる。
「それで……館を襲った連中は分かったのかな?」
「もちろん。ちなみに目的もね。ていうかー、元凶を連れてきたんだから知ってるでしょ」
話の輪から外れて、黙って耳を傾けていた泰牙を見遣ると、部屋の空気は更に重苦しくなる。
その中でも陸人は悪態をつく。
「死人は出なかったけどさぁ……ボク達は危険に晒されて多少怪我人が出て。終いにはオルディネにとって大切なあかねちゃんが誘拐されちゃって、こっちはホントいい迷惑。きっとアンタみたいなのを、疫病神って言うんだよね」
「陸人!いくら何でも言い過ぎだ」
罵倒とも取れる言葉に、駿が咄嗟に諫めるが陸人は一切聞く耳を持っていないようだった。
一方で泰牙は、口を噤んでただ押し黙っている。
「彼が“裏切りの日曜日”の生き残りだと分かった時点で、さっさと協会に引き渡せば良かったんだよ。そうすればこんな事になったりしなかったよ、絶対」
まるで他人事のような言い方と非難に、朔姫は眉を顰めるが、陸人の言い分は確かに理が適っていて、反論は出来ない。
――確かに泰牙さんがいなければ、こんな事にはならなかったかも知れない。
だけど起こってしまったものは仕方がない。
――でも……今ここにあかねがいたら、きっと彼の所為だと咎めたりしない。
むしろ彼を気遣うはずだ。
「今回ばかりはジョエルの意見に同意するよ。お尋ね者なんか匿うだけ無駄さ。それなのに、あの子の傲慢かつ無謀なお願い聞いた君が、余計な算段を立てるから」
「……そうかも知れないね。でもあかね嬢や泰牙の事を、君達に言われる筋合いはない」
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