桜空あかねの裏事情


反省するどころか、非難を跳ね退けるアーネストに、一気に視線が向く。


「君達は確かに反対はした。けれど、それを行動に移したかな?少なくとも私や彼女は、主張を行動に移していたよ」

「はぁ……だから何なわけ?」

「面倒事を彼女に押し付け、高みの見物をしているだけなら、いっそのこと口を閉じておいた方が賢明だと言っているんだ。喚く事なら、犬でも出来るからね」


そう言い放つアーネストは、いつもと変わらぬ笑みを浮かべてはいるが、目は笑ってはいない。


「それに泰牙がいなかったとしても、あかね嬢がこうなる可能性は十分あったよ」


アーネストの発言に、朔姫は目を瞬かせ口を開く。


「どういう意味ですか?」

「彼女は狙われていたのか?」

「みたいだよ。ジョエルと結祈が、そんなような事を話していたからね」


朔姫に続いて駿も尋ねると、アーネストは曖昧な口ぶりで答える。
知らないのか知っているのか、どちらにしてもそれ以上は、教えるつもりはないらしい。


「昶の様子を見たら戻るって言っていたから、結祈に聞いてみたらどうだろう。ジョエルでは、あまり期待は出来ないからね。陸人はどう思う?」

「いいんじゃないのー?ってかボクに振らないでよ」


ふてくされたように軽く手を振って拒否する陸人に対し、アーネストは含んだ笑みを浮かべる。


「そうは言うけど、私は一応部外者だからね。この場にいるメンバーの最年長である、君の意見を聞きたいんだ」


自身の主張を曲げないものの、立場はきちんと弁えている。
だからアーネストは、事を荒げることがなく、人に不快な想いもさせないのだろう。
証拠として先程、侮蔑とも取れる発言をされた陸人に苛つきや嫌悪感などは感じない。


「何だか白々しいなぁ……ま、それでいいんじゃないの?このメンツじゃ話は進まないだろうしねー」


そう言って机に突っ伏してだらけると、一瞬にして張り詰めた空気が緩み、一種の脱力感が訪れる。


「のど乾いたぁー。駿、コーラ頼んで」

「……俺は結祈じゃないんだが」


不満を零しながらも、駿は渋々部屋から出て行く。
その姿が不意に結祈と重なり、もしかしたら第二の苦労人になるかも知れないと、朔姫は茫然と思うのだった。

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