桜空あかねの裏事情

「……そうですね。泰牙さんの事、或いは別の何かか。アロガンテの交渉にアヴィドが応じ、手を組んだのかと思われます」

「察しがいいな。では私の言いたい事も分かるだろう?」


相手を威圧する声色と、顔を上げなくとも分かってしまう程、鋭い視線が突き刺さる。


「私はお嬢さんを守れと言ったはずだ。お前の耳は節穴だったのか?」

「…いいえ」

「普段、あれだけ細心の注意と警戒を払っておきながら、肝心な時に役立たずとは」

「……返す言葉もありません」

「フッ……せめて言い訳ぐらいしてもいいだろうに」


挑発的に意思を求めるジョエルに、何か言おうと下を向いたまま口を開く。
しかし結祈には返す言葉が見つからず、結果として沈黙するほか無かった。


「黙りか………我が子ながら情けない」

「っ……こういう時だけ父親面しないで下さい!僕の事など、どうせ何も思ってないくせに!」


張り詰めた糸が途切れたように、湧き上がる感情を抑えられず声を荒げれば、ジョエルは呆れたように溜め息を零す。


「…それなりに期待はしているさ。お前は異能を複数持つ特異体質。あの下卑た狡猾女から生まれたにしては、上出来だ」

「そんな言い方……いくら貴方でも、母さんを悪く言う事は許しません!」


これでもかと言うほど、険しい顔つきで睨み付ける結祈に、ジョエルは嘲笑うように鼻で笑った。


「母さん……とはよく言ったものだな。あの女の顔もろくに知らず、育てられた記憶すらない癖に」

「それはあなたが……!」


「…うー…」


結祈が言いかけたその時、唐突に聞こえた呻き声にハッとなり冷静さを取り戻すように昶の方を向いた。


「昶…!」

「うーん……結祈?」

「ええ。良かった。気が付きましたか」

「おー……つか、あかね…」

「それは後程お話致します。どこか痛むところはありますか?」

「ん、いや……へーき」


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