桜空あかねの裏事情
短く答えて起き上がると、昶は周囲を見渡す。
「ここって……確か」
「ええ。ヴィオレットです。この部屋は休憩室だとか」
「あー…だよな。オレよくここに入り浸ってるし」
意識がはっきりしてきたのか、昶は立ち上がって伸びをする。
「んーっ!………つーかオレがここにいるって事は、湊志さんも知ってたり?」
「はい。先程までここにいました。昶が目を覚ましたら知らせて欲しいと言っていました」
「そっか。じゃあ行った方がいいか。ついでに飲み物も貰って――」
ドアの方へ歩こうとすると、少し離れて様子を伺っていたジョエルが、行く手を遮るようにして立ちはだかる。
「ジョエル?」
「湊志には私が伝えよう」
「え、あ……サンキュー。ついでにコーラも」
それだけ伝えると、ジョエルは颯爽に部屋から出て行った。
「なんつーか、ジョエルって意外とまとも?素っ気なかったり、優しかったりするけど……結祈もそう思わね?」
「……そうでしょうか?」
表情には出ていないものの、同意を求める声に疑問を投げる結祈。
声色からして訝しんでいるのだろう。
彼とジョエルのやり取りを見る限りは、そう返すのが自然だが。
「この前だって、あかねの事気にかけてたし、オレとポーカーしてくれたし。意外と面倒見がいいっていうか……」
「まぁ……その点に関しては否定はしませんね。朔姫に異能の基礎や髪のしばり方を教えたのも、家出した陸人さんを保護したのは、彼ですから」
「へー!そうだったのか!」
告げられた意外な事実に驚愕と関心を得て、昶は一人納得したような表情を浮かべた。
「やっぱあれだな。親子ってのは似るもんなんだな」
「そういうものでしょうか……え?」
結祈は作業をしていた手を止めて、思わず昶を見る。
「ん?どうかした?」
不思議そうに首を傾げる昶に、結祈は気まずくなり目を泳がしながら口を開く。
「いえ、その……」
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