桜空あかねの裏事情

短く答えて起き上がると、昶は周囲を見渡す。


「ここって……確か」

「ええ。ヴィオレットです。この部屋は休憩室だとか」

「あー…だよな。オレよくここに入り浸ってるし」


意識がはっきりしてきたのか、昶は立ち上がって伸びをする。


「んーっ!………つーかオレがここにいるって事は、湊志さんも知ってたり?」

「はい。先程までここにいました。昶が目を覚ましたら知らせて欲しいと言っていました」

「そっか。じゃあ行った方がいいか。ついでに飲み物も貰って――」


ドアの方へ歩こうとすると、少し離れて様子を伺っていたジョエルが、行く手を遮るようにして立ちはだかる。


「ジョエル?」

「湊志には私が伝えよう」

「え、あ……サンキュー。ついでにコーラも」


それだけ伝えると、ジョエルは颯爽に部屋から出て行った。


「なんつーか、ジョエルって意外とまとも?素っ気なかったり、優しかったりするけど……結祈もそう思わね?」

「……そうでしょうか?」



表情には出ていないものの、同意を求める声に疑問を投げる結祈。
声色からして訝しんでいるのだろう。
彼とジョエルのやり取りを見る限りは、そう返すのが自然だが。


「この前だって、あかねの事気にかけてたし、オレとポーカーしてくれたし。意外と面倒見がいいっていうか……」

「まぁ……その点に関しては否定はしませんね。朔姫に異能の基礎や髪のしばり方を教えたのも、家出した陸人さんを保護したのは、彼ですから」

「へー!そうだったのか!」

告げられた意外な事実に驚愕と関心を得て、昶は一人納得したような表情を浮かべた。


「やっぱあれだな。親子ってのは似るもんなんだな」

「そういうものでしょうか……え?」


結祈は作業をしていた手を止めて、思わず昶を見る。


「ん?どうかした?」


不思議そうに首を傾げる昶に、結祈は気まずくなり目を泳がしながら口を開く。


「いえ、その……」


.
< 568 / 782 >

この作品をシェア

pagetop