桜空あかねの裏事情

「本当だよ。あやうく、後悔するとこだったんだから」

「あぅ…」

「でも………俺もごめんね」

「え?」

「君を。君達を巻き込んじゃって。独りで怖かったでしょ」


突然の謝罪に、あかねは目を丸くする。
果たして自分は、泰牙を要因として巻き込まれたのだろうか。
泰牙の言葉に疑問を感じながらも、あかねは首を横に振って微笑んだ。


「…怖くないと言ったら嘘ですけど、黒貂や矢一がいてくれたので、独りじゃなかったです」


昶達と離れて、確かに寂しいと感じた。
みんなに会いたいとも思った。
けれど嘆くほどでもなかった。
それはきっと、親身に接してくれた二人の存在がいたからだろう。


「それにみんな助けに来てくれたし、こうして泰牙さんに助けてもらいました。だから、大丈夫です」


言い切って笑いかければ、泰牙は一瞬驚いた表情をする。
そして再び笑みを貼り付けると、またあかねの頭を撫でた。


「君は強いね。まだ子供で、異能も大して使えないのに不思議なくらい」

「そんなことないです。私はまだ弱い」


朔姫のように異能を使いこなせるわけでも、リーデルの件に反対してる人達に対して、納得させる力も行動を充分に示せない。
何もかもが半端で未完成なのだ。


「それでも、俺にはそう見えるよ。だから……君の気持ちに応えられないのが、苦しい」

「泰牙さん?」

「ごめんね。臆病で弱い俺を、どうか許して欲しい」


泰牙はそれだけ言って微笑むだけだった。
だが皆まで言わなくても、あかねは泰牙の言わんとしていることが伝わる。
オルディネには所属出来ない。
暗にそう言われ、あかねは悲しかった。
だがそう言った泰牙の微笑みはとても悲しく辛そうで、自分以上に傷付いて見えた。
しばらく沈黙を貫き、やがて胸に手を当て一息吐く。
そして意を決したように顔を上げ、あかねは透き通った青い瞳で泰牙をしっかりと捉えた。


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