桜空あかねの裏事情

「泰牙さん」


あかねは泰牙を真っ直ぐ見つめ、凛とした声で名前を呼んだ。


「私、もっと強くなります。異能者としても、人としても」

「うん……」

「もっと強くなって、ジョエルや陸人さん達……ううん。他の人達にも認められるようなリーデルになります。泰牙さんを守れるように」

「え――」


あかねは小さな両手で、微かに驚きを示す泰牙の手を取る。


「私がリーデルになって泰牙さんを守ります。だからお願いです。オルディネに……私達と一緒にいて下さい」


あかねがはっきりとそう告げれば、泰牙は驚くどころか絶句した。


「泰牙さんの気持ちは分かっているつもりです。勝手なこと言ってるって、自分でも分かってます。だけど……だけど、それでも!私はあなたにいて欲しい」


懇願するあかねに、泰牙は酷く戸惑った表情を見せる。


「…なに、言って……俺がいたら、また今回みたいな事になるんだよ」

「でも泰牙さんが独りになったとしても、またアヴィドの人達に狙われ続けるんですよね?」

「そうだよ。だってそれが――」

「そんなの嫌です」


あかねはきっぱりと言い放つ。


「嫌です。独りが怖いはずなのに、後悔に苛まれて苦しみ傷付きながら、怯えながら生きていく……そんな泰牙さんの姿なんて、見たくないです」

「どうして…」

「知っちゃったから。普段は明るくて、ちょっといじわるだけど、内には苦しみや悲しみを抱えているあなたを。臆病なのに、必死に私を守って助けてくれた優しいあなたを。だから見て見ぬ振りは、出来ません」


未だ戸惑いを隠せないでいる泰牙に、あかねは優しく微笑む。


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