桜空あかねの裏事情
相手に真剣に向き合えば。
理解しようと努め受け入れることが出来れば。
そして自分の想いを伝えれば。
きっと分かり合える。
あかねは少なからず、そう思っている。
「と言っても私自身、向き合わなきゃいけない人から逃げてたりするんで、偉そうな事は実は言えなかったりするんですけどね。あははっ」
槐の事を思い浮かべ、あかねは苦笑する。
その様子に、泰牙は瞠目すると糸が切れたように、がっくりと肩を落とした。
「はぁ……君って実は、相当の手練れだよね」
「手練れ…ですか?」
あかねはいまいち意味が分からず、首を傾げて呟くと、泰牙は深い溜め息を零した。
「無自覚か。君って相当の曲者だよ」
「む!もしかして貶してます?」
「半分ね。全く……俺はとんでもない子に目を付けられたよ」
泰牙はあかねの頭に手をおくと、先程とは比べものにならないほど乱暴に頭を撫でた。
「わわっ!?ちょっと、泰牙さん!?」
「悔しいから、もう少しだけ世話になるよ」
泰牙の言葉に乱れた髪を直していた手を止めて、思わず顔を見上げる。
「え……本当ですか?」
「女の子にあれだけ言われて、断ったら男が廃るよ。それに君といるのは割と好きだからね。その代わり、サングラスの人の事は頼んだよ?」
「はい。勿論です!」
あかねは心の底から満足そうに笑った。
「よし!じゃあ、そろそろ彼らの元へ戻るよ!」
泰牙が溌剌とそう言い、いつもより清々しい笑顔を見せた刹那。
ふわりとあかねの体が浮き上がり、そのまま泰牙に抱きかかえられる。
巷で有名なお姫様抱っこだ。
「泰牙さん、あの」
「言ってなかったんだけど、実はここ廃墟の屋上なのよ。下まで降りるの面倒だし、あんまり遅いと、俺が怒られちゃうからね」
「は?え……ッ!」
「じゃあ行くよ!」
言いながら、泰牙は己の足下を思い切り蹴りつけた。
その瞬間、軽い衝撃が体を包み、あかねの見ていた景色がグニャリと歪んだ。
自分の体から体重が消える。
それらに混乱して数秒後、あかねの見る景色は固定される。
眼下に広がるのは無数の廃墟と、それらと静かに照らす月明かり。
とても静かで、何故か美しかった。
それと同時に、飛んでる。あかねはようやく気付いた。
「やっぱり飛ぶのって、気持ちいいよね!久々にやってみたかったんだ!」
見たことないほど、楽しそうに笑う泰牙。
そんな彼の様子に、あかねは一言呟いた。
「……良かったですね」
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