桜空あかねの裏事情


「へ……」


唐突な疑問に、昶は唖然としながら目を瞬かせる。


「…別になって欲しいとは思わねーけど」


返ってきたのは、予想もしない意外な答え。
朔姫は目を丸くして問い掛ける。


「どうして?」

「どうしてって……それはあかねの自由だろ。そりゃあ、アイツの意志でここまでやってきたんだから、そうなったら最高だと思うぜ。でも」


昶は言葉を続ける。


「まだ人数も集まってないし、反対する人もいる。ぶっちゃけあかねがリーデルになれるか、分かったもんじゃないよな」


あかねは口にこそしてはいないが、実のところ本人が、その事実を誰より受け止めているだろう。
少なくとも昶は、そう感じている。


「しかも期限もあと少しだろ?もしかしたら、途中で諦めることだってあるかも知んねーし」

「諦めるってそんな……。昶はそれでいいの?」

「いいってか、最終的にはあかねが決める事だからな。けどアイツは、そんなこと絶対しねーと思う」


自信満々に言い切る昶。
それだけあかねを理解しているという事なのだろう。
朔姫は直感的にそう思えた。


「つーか、そう言う朔姫はどうなんだ?あかねがリーデルになる事、反対してんだろ?」

「……ええ」


朔姫は言葉に詰まるも、辛うじて肯定する。


「あかねが嫌いなわけではないわ。能力に関しては仕方ないけれど、ジョエルさんの言う通り、資質はあると思う。そうでなければ、あなたや葛城さん達がここにいるはずがないのだから」


彼女の存在があったからこそ、昶を始めとする数人の異能者はオルディネにやってきたのだ。
そして以前とは比べものにならないほど、館の雰囲気も明るくなっているのも、朔姫は確かに感じていた。


「けれど不安なの。本当に彼女でいいのか」


呟いたのをきっかけに、朔姫は心の内に秘めた想いを話し始めた。


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