桜空あかねの裏事情
放課後 教室
「あーヤダ。もう帰りたい。逃げたい」
うなだれるように呟きながら、昶は机に伏せる。
授業が終わり、掃除が終わり、待ちに待った放課後が訪れていた。
鞄を持って友人と話をしながら、教室を後にする生徒や、未だ教室でたむろしている生徒達の姿もある。
廊下からは和気藹々とした喧騒が聞こえている。
「何言ってだか。朔姫と勉強会なんだし、いいじゃん」
「信乃と一条もいるって言っても?」
「あー……ドンマイ」
成績上位だが、教え方が割と鬼畜な信乃。
そして昶と同じく下位をうろつく一条。
勉強会の面子を聞いて、あかねは思わず苦笑する。
「オレもう嫌だよ。あかねも残って勉強しよーぜ。信乃いるし」
「そうはさせない」
背後には、少しだけ目をつり上げた朔姫がいた。
放課後になったばかりというのに、既に教科書と問題集を手にしていた。
「うわ。もうダメだオレ。体が拒絶反応してやがる」
「くだらない事ばかり言わないで。元はといえば、勉強しない昶がいけない」
教科書を見た途端に、昶はやや投げやりな言い草で、両手で目を覆っている。
一方で朔姫は、そんな事など関係ないと言わんばかりに、机を並び始め勉強会の準備をしている。
「えっと、なんなら私も残って――」
「それは駄目」
皆まで言う前に、朔姫にばっさり切り捨てられる。
「あかねがいると昶は集中しない。それに、あなたには予定がある」
「え、予定?」
そんなものあっただろうか。
しかし誰かと約束した覚えはない。
思案したところで、あかねには心当たりがなかった。
「……外に出れば分かるわ」
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