桜空あかねの裏事情


リーデルを目指すと決めた当初、それがどんなものであるか上辺だけの理解しかしていなかった。
だが今では、リーデルというその言葉だけでも重みを感じるようになった。
それはあかね自身がリーデルという存在を自分なりにも認識したからだろう。



「だが君は逃げないと言った。ならば不安に悩むことはあっても、怯えることはない」


ジョエルの励ますような物言いに、あかねは目を瞬かせる。


「えっと……それってつまり、深く考えすぎるなってこと?」

「そう取るか。まぁ何事も加減が必要だろう。それに不安に思うということは、それだけお嬢さんがオルディネの事を真剣に考えている証拠でもある。君をリーデルに望む私としては、とても喜ばしいことだがね」


その言葉に沈んでいた気持ちがスッと晴れていくものの、今度は何とも言えない複雑な感情があかねを包む。
オルディネの事を全く考えていないわけではないが、意志の相違にどことなく申し訳なさを感じたからだ。


「そして……君をリーデル候補に押し上げた理由だが――」


ジョエルは懐に手を入れると何かを取り出し、あかねに手渡した。
それはシンプルなデザインが施されたアンティーク風のペンダントのようなもので、思わず首を傾げる。


「なにこれ?ロケットっぽいけど?」

「そうだ。開けてみろ」


意図が掴めないまま、ジョエルの言う通りにロケットを開ける。


「あ…」


あかねは目を瞬かせる。
――この人達……確かあの写真の。

ロケットに入っていたは一枚の写真。
そこに写っていたのは、あかねが初めてジョエルの部屋に入った時に見つけた写真にもいた金髪と黒髪の少年だった。
ロケットに入っている写真はやや色褪せているが、特徴からして間違いないだろう。

――やっぱり見たことあるような。
――金髪の知り合いはいないんだけど。
――誰かに似てるのかな。
――あ、でも黒髪の人……。



「どうした?」


写真を見たまま無言になったのが気になったのか、ジョエルはあかねの様子を伺うように尋ねた。


「大した事じゃないんだけど……なんか黒髪の人、ジョエルに似てるなぁって」


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