桜空あかねの裏事情
「どんな人なの?」
「とても騒がしい奴だ。大して強くもないくせに好戦的で、頼んでもないのに色々とやらかしてくれるから危なっかしい。おまけに、決めたこと意地でもやり通す頑固なところもあったな」
思いのほかぞんざいな言い方ではあるが、ジョエルの声音は言葉ほど厳しくなかった。
「だがどんな時でも笑顔で前向きで、誰に対しても明るく優しい……太陽みたいな奴だった」
そう言ったジョエルはどこか遠くを見つめていた。
その紫の瞳はどことなく切なさを帯びているように見えた。
あかねはただそれを黙って見つめていると、視線を感じたジョエルと目があう。
そしてあかねの頬に触れる。
「ジョエル?」
「…形こそ違うが、彼と同じ異能。どんな逆境にも負けないその姿はよく似ている。そして……全てを見透かすような青い瞳は、彼のそれと思うほどに」
「………」
「だからこそ……今はまだ淡く小さな光でも、可能性を感じたのかも知れない」
ジョエルにしては珍しくあやふやな言葉だった。
だがそれが答えなのだろう。
――良かった。気紛れで選んだわけじゃなくて。
――それに自惚れかも知れないけど
――ジョエルの本心を聞けた気がする。
「ありがとう。私ってば、いつもジョエルに助けられてる」
「助けてなどいない。私はあくまで役割をこなしているに過ぎない。折角ここまで来たと言うのに、お嬢さんの機嫌を損ないたくはないからな」
「ふふっ」
あくまでを強調しながら、普段通りの皮肉が混じった物言い。
唐突に元に戻った態度に、あかねはおかしくなって思わず笑みを零した。
ジョエルは眉間に皺を刻みながらも、ただその様子を眺めていた。
「私も聞きたい事がある」
笑いが収まった頃、ジョエルは不意に口を開いた。
「君は何故リーデルを望む?今更、私に嵌められたからとは言わないだろう」
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