桜空あかねの裏事情


即答すればジョエルは吹き出すように笑った。
表情を崩してまで笑う彼の姿を珍しいと思いながら眺めていると、視線に気付いたのかジョエルは優しく笑った。


「どんな理由であれ、その想いがあったからこそ、ここまで頑張ってこれたのだろう。ならば私から言うことは何もない」

「本当に?」

「ああ。とは言え、お転婆でまだまだ未熟なお嬢さんには、リーデルとなるべき者として学ばなければならない事が山ほどあるがね」


普段と変わらぬ皮肉混じりの言葉に、あかねは嬉しさと安堵が込み上げる。


「言われなくても、やるべき事はちゃんとやるわ。ジョエルにだってギャフンと言わせるリーデルになるんだから!」

「その意気だ。期待しているよ――あかね」

「!………今日のジョエル、なんか変。ていうか優し過ぎて気持ち悪い!」


唐突に名前を呼ばれ、あかねは青ざめた顔で自身を抱きしめて後退る。


「フッ……本当に可愛げのない小娘だ。人の好意は素直に受け取っておくものだろう」


身構えるあかねにジョエルはおかしそうに笑っていた。
その後も変わらぬ反応に笑い声を漏らしていたが、その紫色の瞳は、どこか優しげに目の前の少女を見つめていた。



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