桜空あかねの裏事情


「トイレに行っただけだよ。そしたら君がいたから気になってさ」

「あっそ。ボクは子供の戯言なんて、聞くだけ無駄だったと思うけどね」


まるで自分に言い聞かせるように吐き捨てて、泰牙の横をすり抜ける。


「そうかな?俺は聞けて良かったと思うけど」


自分とは反対の意見に、陸人は歩みを止める。


「あかねちゃんとはよく話すけど、それでもこういう話は聞いたことなかったからさ。新たな一面っていうのかな」

「さぁ、どうでもいいし。でもそう思うなら、アンタには良かったんじゃないの。これでオルディネに身を置く気になったとか?」

「そうかもね」


即答だった。
陸人はあからさまに怪訝な顔をして、泰牙に問い詰める。


「アンタ頭大丈夫?あんな幼稚な子に自分の全てを捧げんの?」

「んー君には悪いけど、俺はそこまで深く考えてないよ。あかねちゃんがみんなと一緒にいたいと思うのと同じように、俺も彼女の傍にいたいだけだから」



しれっと言ってのける泰牙に陸人は唖然とする。


――意味わかんない。
――なんでコイツも
――あの子の肩を持つんだか。


「まさかアンタもあっち系……」

「あっち…?まぁどっちでもいいけど、あかねちゃんは君が思うほど幼稚じゃないよ。君だってそれは分かってるよね」

「は、何言って――」

「じゃなきゃ、そんなにムキになったりしないでしょ」


有無を言わせない切り返し。
陸人はこの上なく腹立たしく思ったが、何故だか反論する事が出来なかった。
その様子に泰牙はやや呆れた笑みを浮かべて口を開いた。


「素直になればいいのに。何だかんだ言ってあかねちゃんの事、ちょっとぐらい見直してるんでしょ?」

「ふざけんな。あんな小娘、ボクは絶対認めない」

「ぷぷ!強がっちゃって。そういうのツンデレって言うんだよね。面倒くさいって昶くんが言ってた」

「……うるさい。んなわけないじゃん」


気まずそうに答えた陸人に気を良くしたのか、泰牙は更に笑った。


「えー!絶対図星でしょ!君って性格悪いと思ってたけど、面白いとこもあるんだね!」

「なにそれ!?っていうか性格悪いとか、アンタに言われたくないんだけど!」

「ええー?君より大分マシだと思うけどなぁ」


その後も二人の言葉の攻防戦は続き、あかねとジョエルと鉢合わせるまで止まることはなかった。

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