桜空あかねの裏事情
『おーあかね!元気かー?』
「……薊兄?」
聞き覚えのある声が聞こえ、訝しげに尋ねると電話越しから笑い声が聞こえた。
『ピンポーン!さっすが俺の可愛い妹!兄ちゃん嬉しい!』
「良かったね。私はすっごい久々過ぎてとても複雑。この前電話に出てくれなかったし」
五年前に家を出て以来、一度も家に帰ってくることもなく、更には音沙汰もなかった次兄の薊。
電話越しの再会にあかねは驚きと嬉しさと、今まで何故連絡をくれなかったのかという仄かな怒りに包まれる。
『んな冷てぇこと言うなよー。この前は携帯便器に落としちまったり、仕事も色々と立て込んでたんだって』
「……兄貴とは連絡取ってたくせに」
『う……そ、それはなんつーか、駅でバッタリ会っちまって仕方なく……ほら!兄貴ってすっげーしつこいだろ?』
「まぁね」
口は悪いが心配性の兄のことだ。
今まで音沙汰なしだった弟に会った途端、根ほり葉ほり聞いたのだろう。
リーデルの件が公表された時、あかね自身も即座に電話で問い詰められたので、その光景が容易に浮かんだ。
「別にいいけど。それよりどうしたの?急に電話なんて」
『お、おう!そう!そうだ!聞いたぜあかね!お前オルディネのリーデルになったんだってな!』
「あ、うん。そうだよ」
疎遠になっていた兄さえ知っていることに、あかねは密かに驚く。
棗が異能者に関わる仕事に就いていると以前言っていたから、もしかしたら噂が流れてきたのかも知れない。
『いやー千秋から聞いた時は何の冗談かと思ったけど、あとで先輩にも聞いてマジびびったわ。オルディネはてっきり落ち目だと思ってたかんな』
「そうだね。でも私がリーデルなったからには、そんな事は言わせないよ」
『おう!頑張れよ!兄ちゃん応援してるから!困ったことがあったら電話しろよ!』
「はーい」
それから少しばかり話してから、あかねは電話を切った。
「知り合いだった?」
「うん。なんか携帯変えたんだって」
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