桜空あかねの裏事情

「茨城。千葉の隣だけど、ここより田舎だぜ?ちなみに明後日から寮住み。あかねは?」

「東京。私も寮住みになる予定」

「東京なのにか?通えないワケじゃないだろ」

「うん。まぁそうなんだけど……はは」


次第に言いづらくなり、この場をやり過ごす言葉が浮かばなくなってきて、あかねは苦笑する。


「まぁワケありよ」

「ワケありか」

「うん」


肯定して頷けば、昶はそれ以上の追求して来なかった。
他人に気を遣うと言っていたのは、どうやら嘘ではないのだと密かに思った。
彼の後に続いて外に出て空を見上げれば、まだ青い。
とは言え若干日が傾いており、ある程度時間は経過しているのだと推測出来た。


「この後どうする?」

「帰るだけかな。久々に兄貴が帰ってくるんだ」

「え!お前、兄ちゃんいたの?」

「うん」



――ぶっきらぼうで心配性な兄が。



「なら帰らないとな」

「昶は?」

「俺は寄り道する!荷物の整理も終わってるしな」

「そっか」


短い会話だが、このまま別れるのは名残惜しいと思うあかね。
初対面だから踏み込めない部分もあるが、何だかんだ香住昶と言う人物に興味があるのは事実だった。


「遅くなった言い訳は、適当に考えるかな」

「ん?」

「ねぇ、この近くにスタダあるんだけど、行かない?」

「マジで!俺その店好き!家の近所にもあってさ!」

「お、同志じゃん。私もお気に入りなの」

「んじゃ早く行こうぜ!」


満面の笑顔で校門を出て走り出す昶の背を見ながら、あかねもその後に続いて軽い足取りで校門を出たのだった。


.
< 9 / 782 >

この作品をシェア

pagetop