「ありがとう」を君に☆ミ
鏡が真新しい制服を着たあたしを写す。
入学式。
今日からあたしは高校生になる。
ドキドキと胸を高鳴らせながらローファーに足を入れた。
水原日奈埜。
背は大きい方。
少し大きい丸い目に色白な肌。
肩までの真っ黒なセミロング
今日から憧れの高校生。
不安もあるけど楽しみで仕方ない。
仲良い友達は出来るかな?
とか
彼氏は出来るかな?
とか
色んな期待が膨らんでいく。
電車で混み合うのは嫌だから、早めに家を出た。こうして電車通学をすると高校生になったんだと実感する。
学校に着くと満開の桜があたしを迎えてくれた。
「ねぇ…」
振り向くとそこには男の子が立っていた。
背は同じくらいかな…? 少し猫っ毛な茶色がかった髪。
くりっとした目。
薄い唇。
ぱっと見、可愛い。そう思った。
男の子に可愛いなんて変かもしれないけど、本当にそう思った。
うちの高校の制服を着ているから同級生かもしれない。
手には、あたしのお気に入りのクマのハンカチが握られていた。
「あたしの…!」
「君のだよね?」
こくんと頷くと、男の子が歩いてきた。
あ、ちょっとあたしより背は大きいかもなんて思ってたら
「はい、駅に落ちてたんだ」
と笑って渡してくれた。その笑顔に見とれていると
「じゃあね!」
と走り去ってしまった。
あ、お礼言いそびれちゃった…。
あの笑顔が忘れられない。目尻が垂れてにかっと八重歯が見えるあの、太陽のような笑顔が脳裏に焼き付いて離れない。
あれが、あたしとあいつが出会った瞬間だった。