先輩と私と後輩。





「ねぇ、何を読んでるの?」


沈黙を破る様にして本の話に移した。


多分、彼女は本好きだ。
本好きの俺が言うんだ、間違いない!


「…」


無視、か?


俺の紡いだ言葉を無かったことにするかの様に、時間は過ぎる。

変わらずさんさんと午後の陽が俺と彼女2人を照らす。


「太宰」


「え?」


今何か聞こえた。
どこから?

今、図書室には、俺と彼女だけ。

まさか。



「太宰治、です。宮坂先輩」


間違いない、彼女だ。


細い、雑音があれば聞こえないくらい
小さな声で。

<宮坂先輩>と言った。
俺の名前を知っているのか?


「あ、何で名前…」


「上靴…宮坂慎って。見ました」


<宮坂慎>


聞き慣れ過ぎた、その名前は。

少しだけ愛おしく聞こえた。





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