《短編》家出日和
瞬間、立ち上がったと同時にあたしは、キッチンまで走った。


そして水切りカゴに入れていた包丁を手に取り、震える両手で握り締めて。


ゆっくりとそのまま、俊ちゃんの前まで足を進めた。



『…俺のこと、殺すって?』


一筋の長い煙を吐きだした俊ちゃんは、

立ち上がって机の上にある灰皿に煙草を押し当てた。


そしてあたしの瞳を捕えて。



『ココ。』


そう言った俊ちゃんは、あたしの手首を自らの方に引き、

包丁の刃を自分の心臓の場所まで導いた。


小刻みに震えるあたしとは対照的に、その瞳は冷たくて。



『ちゃんと心臓に到達するように、力いっぱい刺せよ?
一撃で殺さねぇと、あとから困るのは亜里沙の方だぜ?』


「―――ッ!」


瞬間、怖くなってあたしは、俊ちゃんから身を引いた。


その拍子に手に持っていた包丁が抜け落ち、

ゴトッと重い音を響かせて。


ハッと笑った俊ちゃんは、一度落としたものに目線を移し、

そして再びあたしの瞳を斜めに捕らえて。



『残念でした。』


「…絶対許さないから…!
いつか必ず、俊ちゃんのこと殺してやるから!!」


『ははっ、楽しみ。』



一生、恨み続ける、と。


いつか必ず、復讐してやるんだ、と。


あたしはこの日、誓ったんだ。



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