《短編》家出日和
『亜里沙、来いよ。』


その一言が何を意味しているかくらい、頭も体も理解し過ぎている。


呼ばれたのは、無機質な俊ちゃんの部屋。


何台も置かれたパソコンや経済新聞、そして漂う煙草の煙。


そのどれもが、冷たい印象の俊ちゃんを、余計に冷たくさせている気がして。


正直、あまり好きではなかった。


まるで決められた動作のように、あたしはベッドの端に腰を下ろす。


煙草を消したのを合図にするように、俊ちゃんがこちらに近づいてきて。



『…お前今日、ホントは何してた?』


「―――ッ!」


気付いた瞬間には、あたしは天井を仰いでいて。


馬乗りになった俊ちゃんは、まるであたしを見下すように睨み付ける。


瞬間、急いで目を逸らすと、無理やりにその舌が割って入ってきた。


生温かいそれが、あたしの中で動くのを感じて。



『…お前、誰かとヤったろ?』


何も答えずにいるあたしに、俊ちゃんは顔を歪ませて。



『…キスのひとつでも、癖ってつくんだよ。
今ならまだ、正直に言えば許してやるよ。』


本当にこの人は。


そんなにあたしの“自由”が許されないのだろうか。



「…彼氏、だよ…」


『―――ッ!』


瞬間、俊ちゃんはあたしの両手首を左手一つで簡単に捕らえて。



『…っざけんじゃねぇよ…!』


許してやる、と言ったはずだったのに、先ほどよりも更に恐ろしい顔をしていた。


それからのことは、あんまりよく覚えてないけど。


竹内の時と同じくらい、痛くてめちゃくちゃだったことだけは覚えてる。


だけど、これであたしを開放してくれるのだと思うと、我慢も出来た。


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