《短編》家出日和
『…今度こんなことしたら、ホントに許さねぇぞ?』



“今度”


そんな言葉にあたしは、動けなくなった体でため息を吐き出した。


期待していた解放なんて、夢のまた夢にさえ思えてきて。


吐き捨て部屋を出た俊ちゃんを、目線だけで追った。


ささやかな抵抗は、ただの悪あがきとして終わった。


本当に、馬鹿なあたし。



まだ重い体を起こし、剥ぎ取られた服を適当に着て俊ちゃんの部屋から出る。


自分だけの空間に、帰るために。



―ガチャッ…

『…亜里沙。
俺の何が気に入らねぇんだよ?』


ドアを開けたその横で、俊ちゃんは壁に体を預けて煙草の煙をくゆらせる。


相変わらず、あたしの近くでは煙草を吸おうとはしない。


そんなところばかり昔のままなのが、少しだけ悲しかった。



「あの日からずっと、あたしは何もかも気に入らない。
あたしは俊ちゃんの思い通りなんかならないから。」


それだけ言って睨み付け、足を進めて自分の部屋のドアに手を掛けた。


瞬間、背中からハッと笑った声が聞かれて。



『…抵抗出来ねぇくせに。』


「―――ッ!」


『結局お前は、俺を殺すことも出来ねぇし、舌噛み切って死ぬことも出来ねぇ。
負けっぱなしだな。』


悔しくて悔しくて、堪らなくて。


唇を噛み締め、部屋へと入った。


バタンと締めた瞬間、涙が込み上げてきそうで。


“泣かない”と誓ったあの日から、耐えることばかりに長けてしまった。


言い返すことも出来ないなんて。


言われた通りあたしには、抵抗する勇気すらもないんだから。


本当に、嫌になる。



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