《短編》家出日和
「…そのままの意味だよ。
あたしもぉ、俊ちゃんと暮らしたくないから。」


『…今更何言ってんの?』


まるで面倒くさそうに、俊ちゃんはそう言った。


電話口の後ろから、煙草を吹かす吐息が耳につく。



「…今更じゃないよ。
前から考えてたことだから。」


『…わけわかんねぇこと言ってんじゃねぇよ。
さっさと帰ってこい。』


本当にこの人は、相変わらずな態度を変えようとはしない。


普通は、“何で?”くらい聞くだろうに。



「…家政婦くらい雇うお金、持ってるでしょ?」


セミの鳴き声も、俊ちゃんの声も。


この日差しも、何もかも。


あたしをイラつかせるばかりする。



「あたしもぉ、うんざりなんだ。」


『…今、どこ?』


少しの沈黙の後、再び問い掛けてきた電話口からの声。



「…あたしココ動かないから、それでもあたしのことが必要なら探せば?
タイムリミットは、夜の8時。」


『ハァ?
お前、何言って―――』


瞬間、面倒になり無理やり通話を終了させた。


指を掛けてそのまま、ボタンを長押しして電源を切る。


これでもぉ、あたしとの連絡手段はなくなったわけだ。


あたしのことを何ひとつ知らないあの人になんか、探せるわけがない。


それ以前に、あたしのことを探すのかどうかも怪しいのだけれど。


あんな日々は、もぉ本当にたくさんだ。


涙なのか汗なのかわからない水分が、目から零れ落ちて。


悔しくなった。



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