《短編》家出日和
始まり
中学三年の夏。


結婚記念日だと言った両親は、二人で映画に出掛けた。


それを見送る、まだ幼すぎたあたし。


確かその日も、ひどく蒸し暑い昼下がり。


両親を乗せた車は、飛び出してきたトラックとぶつかり、大破。


あっけなく、還らぬ人となったのだ。






周りの大人たちはみな、言葉を並べてあたしの今後について議論してくれていた。


都合の良い、押し付けあい。


あたしのことなのに、まるであたしは蚊帳の外。



『…お前が亜里沙か…』


そんな中、葬儀に遅れてやってきたひどく若い男は、あたしを見てそう呟いたのだ。



『辛かったな。』


そんな一言に、張り詰めていた緊張が一気に緩んで。


泣き出すあたしに、男は優しく頭を撫でてくれた。



『…この子、俺が引き取りますよ。』


『俊二!
お前、自分が何を言ってるかわかってんのか?!』


『…叔父さん達こそ、両親を亡くしたばかりのこんな小さな子の前で、何の話してるんですか?』


『―――ッ!』


“俊二”と呼ばれた男の一睨みに、親戚一同は言葉を飲み込んだ。



『ハジメマシテ、になるかな?
俺は、お前のお父さんの従兄妹。』


ポカンとするあたしをよそに、彼は安心させるような顔で笑った。



『俺と、暮らすか?』


コクリと頷くと、そのまま手を引っ張られて。


お線香の匂いが漂うその場所から、

制止する大人たちの声を振り払うようにあたしを連れ出した。



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