《短編》家出日和
何故この日に限って、俊ちゃんは何もしなかったのだろう。


言葉の意味も、その行動も。


優しいキスも、何もかも。


あの日以来あたしは、俊ちゃんの考えていることが何一つわからなくなってしまったから。


昔は、俊ちゃんのことは、あたしが一番よく知ってるんだと思ってたけど。


今のこんな生活、楽しいわけがない。


憎んでるのに。


それでも一緒に暮らしてるから。


俊ちゃんを憎みきれない自分が、心の奥底に居て。


どこからどう狂って、こんな風になってしまったのだろう。


竹内と付き合ったから?


俊ちゃんと暮らしてるから?


両親が死ななければ良かったのかな?


やっぱりあたし、生まれて来なきゃ良かったんだ。


そう再認識させられた16の誕生日は、

やっぱり相変わらず最悪で。


生まれてきた意味さえ見い出せていないのに、将来なんて考えられるはずもなくて。


あたしはいつか、誰かと結婚したり出来るのだろか。


そんな夢を、見ても良いのだろうか。


だけどやっぱり、無理なんだろうな、と。


諦めを知ることが大人になることだとするなら、

あたしはきっともぉ、十分“大人”なんだろう。


そんな風に感じたことは、今でもハッキリと覚えてるんだ。



ズルズルとあたしは、壁を伝って床に崩れ落ちた。


昨日の今日で、何が変わったと言うのだろう。


戻せるなら、どこに戻れば良いのかな。


何で死んじゃったのかな、お父さんもお母さんも。


どこかで見てるなら、あたしのこと助けてよ。


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