《短編》家出日和
聞かれたからあたしは、答えただけなのに。


なのにその“自由”さえも、制限されるのか。


そう思うと、諦めていたはずなのに何故か無性に悲しくなって。


外の世界ではきっと、甘いやり取りが繰り広げられているのだろうに。


あたしは一体、何なんだろう、って。



「…優しくしてよ。
それだけで、良いから。」


『―――ッ!』


気を抜くと、泣きだしてしまいそうで。


言えた言葉は、たったそれだけだった。



『…亜里沙…』


なのに戸惑うようなその優しい声が、嫌で嫌で堪らなくて。


自分がそう、望んだはずなのに。


これでまたあたしは、俊ちゃんを憎みきれなくなる。



『…俺に、どうして欲しい?』


そんなこと、聞かれたって困るんだ。


何を言えば俊ちゃんは、怒らないでくれるだろう。



「…痛い、から。
離してよ…。」


あたしの精一杯の言葉に俊ちゃんは、ゆっくりと立ち上がった。


その瞬間、近かった煙草の匂いが消えて。


俊ちゃんは、自分だけの空間へと戻って行った。



何がしたかったのだろう。


あたしに、どうして欲しかったのだろう。


俊ちゃんなりの“優しさ”が、あたしには全然わかんなくて。


不意に、誕生日のあの日、

ケーキを食べなかった自分に対する罪悪感が襲ってきた。


痛みも、苦しみも、もちろんケーキも。


俊ちゃんに与えられるものはどれも、いらないものばかりだよ。


だけどきっと、そんなことさえわからないんだろうね。



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