《短編》家出日和
『亜里沙!』


「―――ッ!」


瞬間、目を見開いた。


隣の男からではないその声は、この雑踏の中でも低くあたしの耳に響いて。


確認するまでもなく、聞き慣れ過ぎたあの人の声だ。



『チッ!』


振り返った隣の男は、舌打ちを混じらせてあたしから離れた。


ひときは目立つそのカラフルな頭が、人波に消えるのを見送りながらあたしは、

一呼吸置いて後ろを振り返る。



『…どーゆーつもり?』



やっぱりか、と。


こちらを睨んで歩み寄ってくる俊ちゃんの姿に、諦めてため息をついた。



『どーゆーつもりなのか聞いてんだよ!』


瞬間、声に驚いたのか周りに居た人々が足を止めてこちらを振り返る。


こんな怖い顔の人に怒鳴られてる女子高生のあたしは、

一体どんな風に見えているのだろう。



「…まだ何もしてないよ。」


『ハッ!するつもりだったのかよ。』



俊ちゃんの所為で、台無しだけどね。


だけどこれ以上騒ぎを大きくしたくなくてあたしは、言葉を飲み込んだ。



『…俺が居ない間、ロクなことしてねぇとは思ってたけど。
ナメられたもんだよなぁ。』


「―――ッ!」


瞬間、いつもの如く腕を引っ張られて。


突き飛ばされなかっただけ、まだマシなんだろうか、と。



『帰るぞ!』


そう思った。



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