《短編》家出日和
―ガチャッ…

『―――ッ!』


玄関のドアを開けると、先ほど倒れていたはずの場所で俊ちゃんが、

壁に背をつけ座り込んで、煙草の煙をくゆらしていた。


そしてあたしの姿に目を見開いたその顔が、酷く滑稽に見えて。



『…何で戻ってきたんだ?』



本当にあたしは、何で戻って来たのだろう。



「…俊ちゃんが頭打って死んでたら、あたしが真っ先に疑われるからだよ。
それより、大丈夫なの?」


『…あの馬鹿、本気で殴りやがった…!』


本気で悔しそうなその顔を見てあたしは、思わず口元が緩んで。


俊ちゃんの傍まで行き、その場所に腰を降ろした。



『…あのまま逃げとけば、自由になれてたんじゃねぇの?』


「…そうかもしれないけど。
でも、それで全部を帳消しには出来ないから。」


『…だから、憎んでる男と居ること選ぶ、って?』


「―――ッ!」



自分でも、もぉよくわからなかった。


俊ちゃんのことは、確かに憎い。


だけど大我さんに手を引かれたあの瞬間、俊ちゃんの心配しかなかったことは事実で。


何も言わず俊ちゃんは、立ち上がって机の上にある灰皿に煙草を押し当てた。



「…あのままあたし居なくなったら、俊ちゃんはどうしてた?」


『…わかんねぇけど。
色んな事に後悔してたかもな。』



あたしから見た“大人達”の言葉の意味は、やっぱり全然わかんなくて。


背中を向けたその言葉は、どんな顔をして言ってるのだろう。


それすら、読み取ることは許されないのかな。


俊ちゃんは、何に後悔するの?


あたしはこれで、後悔しないの?



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