《短編》家出日和
瞬間、俊ちゃんを突き飛ばしあたしは、自らの部屋へと逃げ込んだ。


バタンと閉めてそのまま、ドアに背をつけ崩れ落ちて。


真っ暗な部屋の中に、あたしの少し荒くなった息遣いが響く。



『亜里沙。』


「―――ッ!」


ドア越しに、俊ちゃんがあたしの名前を呼んだ。


それ一枚を隔てて聞こえてくる声に、また涙が溢れて。


一度緩んだ涙腺から溢れるものを、止めることが出来ないまま。



『…聞いてる?
お前、何で泣いてんの?』


答えることも出来ずあたしは、声を殺した。


嗚咽さえも漏れ聞こえそうなほどに、俊ちゃんの声が近くて。



『…とりあえず、開けて出て来いよ。
もぉ何もしねぇから。』


諦めあたしは、ゆっくりと立ち上がった。


そしてドアノブに手を掛け、ゆっくりとそれを下に引く。


ガチャッと開けた隙間に、リビングの明かりを背に、俊ちゃんが立っていて。


その顔を見ることも出来ずあたしは、顔を俯かせた。



『捕まえた。』


そう言った俊ちゃんは、瞬間にあたしを抱きしめて。


慣れ親しんだ纏うその煙草の匂いに、またあたしは、何故だか涙が溢れて来て。



『…わかったから、泣くなって…』


その腕に力を込めた俊ちゃんは、優しい声であたしの頭を撫でて。


俊ちゃんの所為なのに、俊ちゃんによって安心させられて。


憎んでたはずなのに、って。


もぉ、めちゃくちゃすぎてわかんなくなった。


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