《短編》家出日和
『準備しろよ。』


「やだよ。
あたし、行かないって決めてるし。」


『誰も、修学旅行行けとか言ってねぇだろ?
出掛けるから準備しろっつってんの。』


「―――ッ!」


ポカンとしてあたしは、ゆっくりとテレビから外した目線を俊ちゃんへと移した。


そこには、優しい時に見せる伏し目がちに笑った顔があって。


戸惑うあたしに、俊ちゃんは言葉を続けた。



『ついでだし、どっか連れてってやるよ。』


「え?
でも、仕事―――」


『良いよ、別に。
それにこの前、予想外に儲けちゃったし。』



そう言えば俊ちゃん、この前ニュースでどっかの社長が逮捕されて、

珍しく喜んでたっけ、と。


いやそれ以前に、二人で出掛けるの、と。


何だか色んなことが頭の中を巡って。



『早くしろって。』


「え?あぁ、うん。」


気付いたら、ボケた頭でそのまま返事をしていて。


立ち上がった俊ちゃんに、訂正の言葉を掛けるタイミングを失ってしまった。


本当にあたしは、どこまで馬鹿なのだろうか。


俊ちゃんと出掛けるなんて、一体いつ以来だろう。


もぉ思い出せないほどに、遠い昔に感じてしまう。


やっぱり修学旅行、行くべきだったのかも、と。


長いため息を吐き出しながらあたしは、頭を抱えた。


何よりあんな優しい顔をされると、どうして良いのかわかんなくなって。


嫌いじゃないその優しさに、戸惑ってしまう自分が居る。


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